複合表面処理技術
1つの皮膜に2つの相反する機能を付加する。
野村鍍金はそんな不可能にも思える表面皮膜を実現させた。
ー複合表面処理技術の一例ー
2つの皮膜の特性の融合
製紙・印刷やフィルム・シート製造などの生産過程で最も重要なことは、どれだけ完璧な表面を持つロールを使用できるか、と言うことだ。
表面がザラザラしたロールで作られた製品は、当然だがその表面もザラザラしてしまう。
特に透過性を求められる光学用フィルムなどの場合には、小さな塵一つ、キズ一つが製品の価値を無に帰してしまう可能性さえあるのだ。
野村鍍金の仕事はロールに限らず、すべてを用途に応じた表面状態に仕上げられるかどうか、というところにかかっている。
実際のところ、ロールの表面を単にツルツルに仕上げるという技術は各社それぞれに実力を発揮して、さほどその差が認められないところまできている。
だが、大切なのはその皮膜の表面が実際にどのような使われ方をされるのか、ということが把握できているかどうか、ということなのである。
しかし、これが難しい。何しろ皮膜の表面に触れる原料や成分がラインごとに異なる上に、各工程によってどのような使われ方をされるのかがそれぞれ違うのだ。
一般的にはツルツルしたロールが多用されるが、逆にあえて表面をザラザラの状態に仕上げることだってある。
つまり、取引先の用途に応じたニーズにどれだけ応えられるのかが大切なのだ。現在、野村鍍金が特許を持つジャガーロールとタイガーロールもそんな中から生まれてきた技術である。
ジャガーロールとタイガーロールは複合表面処理の仕上がりの違いがあるだけで、基本的には同じ技術だと見て貰えればいい。
2つ以上の皮膜を組み合わせることでそれぞれの皮膜特性を1つのロールに与えるのだ。
たとえば製紙業界やフィルム業界で特に必要とされていたのは汚れのつきにくい表面処理と帯電防止である。
つまり、ロールから製品が剥離する速度を高めると、生産性は向上するが製品への帯電が増してしまう、
だから同時にその帯電を防止する機能を与えるという、相反する特性が求められていたのだ。
野村鍍金では1社で表面処理から機械加工までが可能という他社にはない強みを生かし、表面処理技術と機械加工技術を組み合わせ、
2つ以上の特性を持つ皮膜を1つの表面に共存させることによって相反する性質を備えた複合表面処理技術を完成させたのである。
この野村鍍金の複合表面処理技術はめっきと機械加工を組み合わせるだけではない。
たとえばテフメタルコート。この製品は分散めっきと呼ばれる手法でフッ素樹脂を金属皮膜表面に共存させることで、従来よりもはるかに優れた撥水性を発揮する。
超精密切削用皮膜である「快削くん」はめっきと機械加工の組み合わせではなく、逆に皮膜に対する従来の機械加工技術の限界を超えるために開発された合金めっき技術である。
必要な機能を必要な個所へ、機能がないならば新しく作り出す。成功も失敗も全て積み重ねていく。
このように、野村鍍金は取引先のニーズに応じたあらゆる案件に対応できるよう、様々なデータを蓄積し、取引先の要望に応え続けている。
その時、技術者たちは
Engineer Profile
Name : 吉岡 重治
University Graduation :
大阪工業大学工学部応用化学科
ジャガーロール、タイガーロールについては、素材にクロムめっきを施すところから始めます。素材の表面の凸凹にクロムめっきをするわけです。
しかし、そのままでは凸凹のままですから、そこへフッ素樹脂による表面処理を施します。そして、表面を研磨して行くわけです。
すると、フッ素樹脂でコーティングされた中に所々、クロムめっきが露出する。クロムが露出することで、フッ素樹脂部分が帯電しにくくなるわけですね。
難しかったのは、その微妙なバランス。どの程度クロムめっきが露出していればいいのか。
フッ素樹脂との相性はどうか。実験をしては小さなデータを収集し、また実験を繰り返すというやり方で、現在の複合表面処理のスタイルが完成しました。
アメリカなど、欧米では数多くのスペックが蓄積されているのに対して、日本の場合はデータを蓄積するというのが苦手なんでしょうね。
何か始めようとすると、常にそこからスタートしなくちゃいけないんです。でも、技術者としてはそれが面白味にもなっているんだと思いますね。
自分たちで新しい技術開発をしているという実感があります。